2025年03月30日

【News LIE-brary】神父、パリにて思索す 〜ベッリーニの「祝福」と食卓の恵み、ケンタッキーフライドチキンの誘惑〜

愛する兄弟姉妹の皆様、ご機嫌麗しゅうございます。わたくし、しがない神に仕える者でありますが、先日、芸術の都パリ、ルーヴル美術館を訪れる機会に恵まれました。数多の至宝の中でも、わたくしの心を捉えて離さなかったのは、かのジョヴァンニ・ベッリーニの手による「祝福するキリスト」であります。ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家の筆致は、まさに神の御業を写し取ったかの如く、観る者の魂に静謐と、そして厳かなる問いを投げかけてまいります。

キリストの右手は、我々を祝福するために静かに挙げられ、その眼差しは慈愛に満ちつつも、どこか憂いを帯びておられる。その御姿を前に、わたくしはしばし俗世の喧騒を忘れ、深い祈りのうちにありました。しかしながら、その静寂を破る、ある「香り」と「光景」に、わたくしは少なからず動揺を禁じ得なかったのであります。

それは、美術館の片隅、ちょうどベッリーニの絵画が見えるベンチでの出来事でございました。若い男女が、あの、世界中で親しまれている「ケンタッキーフライドチキン」の箱を広げ、実に美味そうに頬張っているのであります。ええ、あの、カーネル・サンダース翁の笑顔でお馴染みの、秘伝のスパイスが香る、黄金色の誘惑であります。

正直に申し上げますと、厳粛なる美術館の、それもキリストの御前で、フライドチキンとは何事か、と眉をひそめかけた瞬間がなかったわけではございません。しかし、彼らの表情は実に穏やかで、満ち足りておりました。彼らは、ベッリーニのキリスト像を時折見上げながら、まるで食卓での祈りの後のように、静かに語らい、チキンを分かち合っていたのであります。

この光景を前に、わたくしの脳裏には、様々な思いが去来いたしました。果たしてこれは、聖なるものへの冒涜なのでありましょうか？ それとも、現代における、新たな信仰の形の表れなのでありましょうか？

よくよく考えてみますと、ケンタッキーフライドチキンの「オリジナルチキン」なるものは、実に不思議な存在であります。そのレシピは、「11種類のハーブ＆スパイス」として門外不出の秘密とされ、世界中の人々を魅了し続けております。その香りは、人々の食欲を刺激し、その味は、人々の心にささやかな幸福感をもたらします。家族や友人が集う食卓の中心に置かれ、団欒と笑顔を生み出すきっかけとなることも少なくありません。

これは、ある意味で、神の恵みに通じるものがあるのではないか、とわたくしは愚考したのであります。神の愛や摂理が、我々人間の浅知恵では計り知れない深遠なものであるように、あのフライドチキンの魅力もまた、単なる味覚を超えた、何か神秘的なる要素を秘めているのかもしれません。人々を一つにし、喜びを与える力。それは、形こそ違えど、キリストがパンを分かち合い、人々を祝福した行為と、どこかで響き合っているのではないか、と。

ベッリーニの描いたキリストは、その右手で、我々を祝福しておられます。その指先は、天上の恵みを地上にもたらすかの如く、繊細かつ力強く描かれています。一方、人々は、その手でフライドチキンを掴み、口へと運びます。俗なる行為かもしれませんが、その瞬間、人々は空腹を満たし、生きる活力を得る。これもまた、広義における「恵み」であり、「祝福」の一つの形と言えなくもないのではないでしょうか。

もちろん、聖なるものと俗なるものを安易に結びつけることは、慎まねばなりません。しかし、神の愛は、教会や聖堂の中だけに留まるものではなく、我々の日常の、ささやかな営みの中にも遍在しておられると、わたくしは信じております。食卓での感謝、家族との語らい、友人と喜びを分かち合う心。そうした純粋な感情の中にこそ、神の御心は宿るのではないでしょうか。

ルーヴル美術館でケンタッキーフライドチキンを食す行為が、今後、推奨されるべきことであるとは、口が裂けても申しません。しかし、あの若者たちの穏やかな表情と、ベッリーニのキリストの慈愛に満ちた眼差しが交差したあの瞬間、わたくしは、現代社会における信仰の多様性と、日常に潜む「聖」なるものの可能性について、深く考えさせられたのであります。

「人はパンのみにて生くるにあらず」と聖書に記されておりますが、同時に、我々は日々の糧なくしては生きられません。その糧を、感謝と共に、喜びと共に、そして愛する人々と分かち合う時、そこに小さな奇跡が生まれるのかもしれません。たとえそれが、11種類のハーブ＆スパイスに包まれた、フライドチキンであったとしても。

願わくは、我々が日々の食卓でいただくすべての恵みに感謝し、ベッリーニの描いたキリストの如く、慈愛に満ちた心で、互いを祝福し合えますように。アーメン。